ここあん便り

言葉を失っていく人

携帯ショップでの出来事。

思わず注目してしまう私がおかしいのかも知れないが・・・。
30代の男性がひとり、お店に入ってきた。
店内を見渡す風もなく、まっすぐにディスプレイしてある携帯電話を手に取り試す彼。
新米店員が慌てて駆け寄る。
「今日はどういったご用件でご来店されましたでしょうか?」と尋ねる。
男性は店員を見ることなく、携帯の操作を続けつつ
「機種変」と一言。
店員はその男性の背後から更に問いかける。
男性客はとても体格がよく、店員はとても小柄、なのでお客のお尻に向かって話しかける風でアル。
「お求めの機種等、すでにお決まりでしたらお伺いしてもよろしいですか?在庫の確認のみさせていただけたらと思いますので。」
男性はその間も店内を移動し、展示してある携帯電話を手にとって見ている。
店員はまるで金魚の糞の如く、男性の後ろを追いかけつつ話しかけている。
「最新の」
男性の一言に店員は
「あ、でしたらこちらですね。」と最新モデルをすすめる。
最新モデルを手に取り、チェックし始める男性。
「では、ひとまずアンケートにお答えいただいて、15分くらいお時間いただくと思いますが、その後にお手続きさせていただきます。」
男性の横からアンケート用紙を差し出し、記入を促す。
さらに、アンケート用紙を受け取る男性客に向かい
「よろしければ、あちらの席の方でご記入下さい。」と背後から手をヒラヒラさせる店員。
男性客は黙って椅子へと向かい腰を下ろした。
その間、この二人が向き合うことは一度も無く、男性の放った言葉は、「機種変」「最新の」のふたつ。
映画やドラマのシーンのようだ。
そう思いつつ、「それでいいの?」という気持ちがむくむくしはじめる。
これから先、会話というものが、成り立たない時代になっていくのではないか。
対面コミュニケーションを必要としない人がすでに生まれつつあるのでは?
最終的には言葉さえ失って、それでもスマホを介して意思の疎通が出来る、そんな人々が増えていくのかも、と恐ろしくなった。
男性客が、ただの恥ずかしがり屋であればいいのだが・・・。