ここあん便り

松居直さんへのレクイエム

松居直さん、福音館書店の創業に関わり、「こどものとも」を創刊し、数々の素晴らしい絵本を世に送り出して下さった方。
昨日、訃報が報じられ、またひとり、尊敬する方がこの世を去ってしまったなあと、寂しい気持ちでいっぱいになった。

ここあんの小さな絵本販売コーナーに、在庫を欠かしたことのない小さな本がある。


NPOブックスタート発行の小冊子。
松居さんは、イギリス発祥のブックスタートに2000年に出会い、その後国内にブックスタートを広める活動に積極的に関わってこられた。
日本のブックスタートは、6ヶ月健診時、自治体が赤ちゃんに絵本をプレゼントする運動として全国各地に広まった。

今でこそ、赤ちゃんと絵本を楽しむことが常識となったけれど、「聞いてくれない」とか、「噛んだりなめたり、おもちゃにしてしまう」など、赤ちゃんと絵本を楽しむのは難しいと感じている方もあり、子どもと絵本を楽しむことの本質を理解している人は案外少ないのではないかな。
そういった意味から、赤ちゃんにとっての絵本、絵本の意味や役割、楽しみ方を優しく伝えるこの1冊は貴重。
(出産祝いにこの1冊を添えてプレゼントされる方もありますよ)

松居直さんは編集者として、絵本作家として、ひとりの父親として、絵本を介して子どもを見つめ続けた方ではないかと思う。
沢山の著書を残しておられるので、どの本にあったのか定かでないが、心に残っていることがいくつかある。

ひとつは、家の本棚に同じ絵本が複数あるというごエピソード。
家族はみんな(お子さんたちも)ひとり一人が自分用の本棚を持っていて、その本棚にはお気に入りの本が並んでいる。
結果、同じ絵本がそれぞれの本棚にあることも珍しくないそうだ。
私は、松居さんのお子さんたちが、小さい頃、繰り返し読んだ絵本を、大きくなってからも本棚に大切に並べている様子を想像して、羨ましく思った。

もうひとつは、「読んで聞かせよう」とするのではなく、自分(大人)が読みたいから読むのであって、子どもに聞かせようなどと思わないのが良いという話。
子どもは聞きたければ聞くし、聞きたくなければ聞かない。それで良いではないか、ということ。
「聞かなくても良いけど、聞かないともったいないよ」といった雰囲気が日常にあると、結局子どもは聞くのだそう。

「ぼくらのなまえはぐりとぐら このよでいちばんすきなのは おりょうりすること たべること」
先日、一足先に天国へ旅立たれた山脇百合子さんと、ぐりとぐらのお話しの続きを一緒にされるのではないかしら?
そんなことを思いながら、松居さんが世に出して下さった絵本を改めて眺めて過ごしてみることにしましょう。

どの絵本も、声に出して読めば歌うように心にしみてきます。
松居さんへの鎮魂歌として、今日はゆっくり声に出して読んでみます。