今、子ども向けイベントに事欠かない。
子育て支援の名の下、その気のある人であれば連日飽きることなく参加できる催しや場所が用意されている。
「アートスタート」もそうした数あるイベントの中のひとつと捉えられがちだが、決して一過性のイベントにしてはならないと思う。
小さな地域(人口)単位で、行政と地域住民とでその地域の子どもひとり一人を育むための手がかりとして繰り返し行えるのが理想。
その地域の教育・文化・福祉に関わる行政職員が住民(個人・グループ)とともに関わるのがいいと思う。
先日もアートスタートの会場で、その後のフォローが必要と思われるご家族に出会った。
二人の幼い姉妹とご両親、どうしても会場に入ることができない。
お子さんの「いや!こわい!」の言葉、本当は何を表そうとしているのだろう。
同じく泣き濡れている母親の様子も気になった。
忍耐強くお子さんを抱きながら寄り添う父親の姿に、放ってはおけない感じがして、少し距離と時間を置きながらもこの親子にとって最善の対応をと話し合う。
人には個性があり、育ち方も皆違う。子どもの意志でアートスタートに出かけてくるわけではないのだから、子どもが泣いて拒否したり、舞台とは無関係にはしゃいだり走り回ったりすることだってある。それは当たり前のことだと思う。
けれど、それを理解した上でアーチストは子どもたちの心に近づいて行く努力をするし、スタッフもそれを支えるべく参加者に無理のないサポートをする。
会場のいる全ての子どもと親たちがその人なりの満足感を得られるように心地よい空間を保ち続けること、それがアートスタートのプロの仕事。
それでも上手くいかないときがある。そうしたときは小さな子どもたちに無理をさせないためにも「諦めて次の機会を待つこと」を優しく伝える、それもまた、私たちの大切な役割。
けれどね、諦めきれない気持ちを自分で抑えきれなくなるお母さんもあるの。
こうなると、地域の保健師さんや保育士さんの出番。その後のフォーローも安心してお任せできる。
お芝居や音楽、非日常の一時を親子で体験しながら豊かな感情を響き合わせる場所、そこでは親子だけでなく、家の子を見守ってくれる人たちがいるんだと実感できる。「シアター・劇場」とは、そもそも人々が集い心を通わせる場所のことではないか。
だから、アートスタートが親子共に安心できる空間であるようにと願っているし、そうなるように頑張らねばと思う。
先ほどの気になる親子。アートスタートのコンサートの部には参加できなかったが、終了後のふれあいタイムに参加ができ、その家族のためだけの一曲を涙の中で聴き、最後には二人のお子さんが笑顔でさよならできた。
次又お会いするとき、このご家族に笑顔が溢れていることを願いながら見送った。